腐女子言端の内と外

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拙メールマガジンより

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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜

第十六回  空蝉源氏小君拾壱態
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御機嫌よう。葡萄瓜でございます。
では、ゆるゆると雑談をさせて戴きましょう。


今回は筆者の手許にあります「源氏物語」現代
語訳の比較でございます。といっても筆者の事
ですから大層な事をする訳ではございません。
源氏の君に愛された女性・空蝉の弟・小君の登
場部分だけを読み合わせて短き雑感を述べよう
という試み。帚木源氏(註1)ならぬ空蝉源氏で
ございます。宜しければお付き合い下さいませ。
何故斯様な試みをするかと言えば、小君と源氏
の君との関係について稚児愛という観点から解
釈される事があると聞き及び(実際彼は姉と平
行して源氏の君に寵愛されて居た訳ですが)、
訳される方々はその辺をどう処理しているのか
と興味を持った事がそもそもの発端。研究者と
しての素養を持ち合わせぬ輩の戯言と微笑まし
く観て戴ければ幸いです。
書名順不同、また文体も寸評部分は変わってお
ります。凡そ相応しますのは「帚木」「空蝉」
の帖と思って下さいませ。


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ぞんざいと典雅さの同居した文体。それだけに
親しみを感じる部分もある。小君は終始源氏に
翻弄され放し。年下の男の子に甘えるんじゃな
いよと源氏の背中を背後から叩きたくもある。
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潤一郎訳 源氏物語 (巻1) (中公文庫)

潤一郎訳 源氏物語 (巻1) (中公文庫)

文体は普通の女性以上に細やかであると感じる。
が、それば典雅に憧れる故か?
小君の描写は割にそっけなく描かれている様子。
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女人源氏物語  1 (集英社文庫)

女人源氏物語 1 (集英社文庫)

帚木・夕顔の巻を併せ「空蝉 空蝉のかたる」
として記述。姉から見た弟という観点であり、
小君自身の愛らしさを求める方にとっては物足
りない記述であるやも知れない。
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源氏物語<新装版> 巻一

源氏物語<新装版> 巻一

原典に忠実な訳として新たに編まれたもの。
大人びて振る舞いはするもののやはり子供であ
るという小君の等身大を描き、愛らしさに於い
ても瑞々しく描かれている。
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源氏物語 (上)

源氏物語 (上)

学童向けという事でかなりのアレンジが試みら
れている。とはいえちゃんと正調な読み方の為
のポイントはしっかり押さえられている。挿絵
天野喜孝氏を起用したのも大胆ではあるが雰
囲気はうまく重なっている。
ただ一点惜しむらくは源氏と小君の絡む場面を
全面カットしてあることだ。小君と源氏が絡む
場面は源氏が小君の姉空蝉の許に通おうと腐心
する場面と表裏一体であるので、ある配慮の上
削除されたのやも知れぬ。
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源氏物語=典雅と思っている方にとっては、衝
撃的な訳なのかも知れない。事実筆者も一瞬呆
然とした。ある意味江川源氏に通じるものあり。
小君の描写は、人形浄瑠璃の子供役と言う感じ。
子供以上でも以下でもない。
なお、現在小泉源氏は新装版として流通してい
る。

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源氏物語 2 帚木 (愛蔵版コミックス)

源氏物語 2 帚木 (愛蔵版コミックス)

源氏物語 3 空蝉 (愛蔵版コミックス)

源氏物語 3 空蝉 (愛蔵版コミックス)

年相応に本能に忠実でありつつ典雅であろうと
する源氏が描かれている。描写に過激な部分あ
り。留意されたし。
登場当初の小君はこまっしゃくれた大人ぶった
子供にしか見えないが、巻を改めると姉の身代
わりとして愛撫されるしかなくてもなお源氏を
慕う健気な「恋する者」に変貌している。
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源氏物語〈上巻〉

源氏物語〈上巻〉

TV番組に於いて語られた「源氏物語」を活字に
起こしたもの。そのため、平易な語り言葉とな
っている。小君はただ脇役として存在する。
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源氏物語 巻1 (新潮文庫 え 2-8)

源氏物語 巻1 (新潮文庫 え 2-8)

王朝気質を匂わせる典雅な文体で訳が展開。
ここで描かれる小君は大人として(大人に都合
良く)扱われる子供、という印象がある。
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窯変 源氏物語〈1〉 (中公文庫)

窯変 源氏物語〈1〉 (中公文庫)

小君登場部分は「空蝉」に集約。かなり生々し
源氏物語である事は間違いない。
姉・空蝉の身代わりとされる過程で「大人」に
される点では江川源氏と共通しているが、ここ
には江川源氏に感じられた若さ故の気恥ずかし
さはない。後味はただ苦い。
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新源氏物語 (上) (新潮文庫)

新源氏物語 (上) (新潮文庫)

「眠られぬ夜の空蝉の巻」に集約されている。
すっきりとした文体で親しみやすく、小説とし
て読むにも良し。
小君は愛らしい子供として描かれている。が、
源氏にはその健気さがとんと伝わらずただの使
い扱いされるばかりである。
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流石にこういう観点で源氏物語の訳を読み比べ
てくどくど申し上げたのは筆者程でしょう。
実際のところ内心では畏れ多くも畏くも、と頭
を地に擦り付けつつキーを叩いて下ります。
元はBLOGにて展開させて戴いた話でございます
が、雑感として流すのもなんでございましたの
でこういう形を取らせて戴きました。他意はご
ざいません。こういう機会が生まれた事に深く
深く感謝致しております。
なお、今回取り上げた中で三種の訳を為された
瀬戸内寂聴尼の著書には下記の参考著書がござ
います。興味をお持ちでしたら一読をお勧めし
ます。


●  ○  ◎  ●  ○  ◎  ●  ○

橋本治氏との対談も収録されています。
●  ○  ◎  ●  ○  ◎  ●  ○


さて、此度はこれにてとりあえず筆を擱かせて
戴きます。次号まで、御機嫌宜しゅう。
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註1
「ははきぎげんじ」と訓ずる。「帚木」は源氏
物語五十四帖の内第二帖、「空蝉(うつせみ)」
は第三帖。
源氏物語読破を目指すも、帚木の帖内の「雨夜
の品定め」の部分を読み解くのに挫折し、先に
進めなくなる事の謂れであるとか。
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仇花の記憶〜ショタやおい雑話〜
第十六回 2004.6.10発行